猫になんてなれないけれど
「冨士原さん、美味しくないんですか?」

「いえ。旨いですよ」

「・・・じゃあ、意外っていうのは・・・?」

意味がわからず尋ねると、冨士原さんは「ああ」と頷く。

「真木野さん、もっと黙々と食べるイメージだったので。そういう、旨そうな顔で食事をするのは意外でした」

「えっ」

黙々と・・・って、無表情で食べてる感じ?

冨士原さんの中で、私はどういうイメージなのだろう・・・。

「美味しいものは、ちゃんと美味しく食べますよ」

「そのようですね。よかったです」


(『よかったです』って・・・私、あんまり印象良くないのかな)


確かに、愛想のいいタイプじゃないのは自覚しているつもりだけれど、こんなに美味しい料理なら、どうしたって「美味しい」って顔で食べてしまうに決まってる。

普段が「無愛想」とか「可愛げがない」とか、言われている気持ちに勝手になって、ちょっとムッとしてしまう。

「私は・・・冨士原さんが猫好きなのが意外でした」

感じ悪く言ってしまった。

猫どころか、動物好きなのが意外でした!!と言いたいところはグッとこらえた。

「ああ・・・さっきも驚いてましたね」

「はい。その・・・冨士原さんも、猫と遊んだりするんですか?」

本当に猫好きらしいことはパーティの会話でわかったけれど。やっぱり、猫と戯れる姿は想像できない。

確認のように尋ねると、冨士原さんは、無表情のままで返事する。

「遊びますよ。実家にいるときは、普通に」

「・・・猫じゃらしとか?」

「ええ。ボールとか」


(ボ、ボール!?)


冨士原さんが、猫に向かってボールを転がす姿をなんとか想像しようと試みる。

それは一応できたけど、脳裏に浮かんだ冨士原さんは、機械のように、無表情で猫の相手をしている光景だった。


(・・・こんな感じ?いや、でも、冨士原さん今日はちょっとだけど笑っていたし、猫相手だと、もっと楽しく遊んでるのかな・・・)


「真木野さんも、犬を飼ってたなら犬と一緒に遊ぶでしょう。同じですよ」

「お、同じ・・・なんですかね・・・」

そう言われても、無邪気に猫と遊ぶ冨士原さんは想像できない。

なのになぜか、猫と楽しそうに遊ぶ祥悟の姿が、容易に脳裏に浮かんでしまった。


(うわ・・・!やだやだやだ!!)


頭の中から、必死に彼の姿を打ち消した。忘れたいのに、不意に何度も思い出す。

早く、私の記憶から完全にいなくなってくれればいいのに。







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