猫になんてなれないけれど
それから、もう少しだけ犬と猫の話をした。

そこで、冨士原さんの実家の猫は、茶トラの「そら」と三毛猫の「もも」だという情報を新たに取得。

私の実家の犬は「ラブ」だと名前を教えたら、「ラブラドールでラブですか」と真面目な顔で返されて、なんとも言えない気持ちになった。


(笑うなら、笑ってほしい・・・)


母親がつけた、なんともわかりやすいネーミング。

友達からは「単純~!」って笑われて、私も「でしょ!」と一緒に笑った名前。真面目に反応されてしまうと、逆にちょっと恥ずかしくなる。


その後は、パーティの話題に移っていった。お互い、異性に囲まれていたものの、いいなと思える相手がいなかった話題に触れた。

「既婚者だった方のことは置いといて・・・。あとは全員、女性に甘えたいタイプの男性だったんです。結婚前提だと思うと、どうしても頼りない感じがあって」

別料金で注文していた日本酒は、お互いに3杯目に突入していた。ほろ酔い気味で説明すると、冨士原さんは「へえ」と言って、少し驚いた顔をした。

「意外ですね。真木野さん、甘えられることが好きそうですが」

また、「意外」と言われてしまった。本当に、冨士原さんの中で私はどういうイメージなんだろう・・・。

「付き合ってから甘えられるのは、まあ・・・別に、いいんですけど。最初から『甘えます』って感じで来られると、やっぱり重く感じます」

「・・・なるほど。それなら、嫌いなわけではないんですね。甘えられるのは」

「まあ・・・そうですね。好きな人なら」

返事をしながら、祥悟のことを思い出す。

彼は、基本的には明るくて優しい人だったけど、時に深く落ち込むようなこともあり、そんな時は、「会いに来て」って連絡がきて、私はそのたび、どんなに疲れていても彼の家まで車を飛ばした。

彼女として、必要とされている実感。

祥悟が甘えてくれるのを、「しょうがないなあ」なんてめんどくさそうに言いながら、私は多分、すごく嬉しかったんだと思う。

「真木野さん自身は、甘えないんですか」

冨士原さんに問いかけられて、私ははっと意識を戻した。祥悟のことを、すぐに思い出して感傷に浸る自分が嫌だ。

「あ、えっと・・・そうですね。私はあまり、甘えないです」

だって、男の人に甘えるのって苦手だし、そういう柄でもないって思う。

・・・と、口にしそうになったけど、そこまで私に興味がないと思ったし、これ以上話すのも恥ずかしいので、冨士原さんに話を振った。
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