猫になんてなれないけれど
「・・・モテますね」

うらやましくて、恨めしそうに言ってしまった。すると、冨士原さんは小さく笑った。

「何度も来てますし。それに、猫は動かない人間に結構寄ってきますから。オレは、あんまり動かないので」


(ん?今、『オレ』って言った?)


聞き間違いではなかった気がする。通い慣れた場所のようだし、猫と一緒にいるからか、素の冨士原さんが顔を出したのかもしれない。

予想していたように、無表情で猫と戯れることはなく。だからといって、はしゃいで遊び出すでもなく、デレデレとするでもなくて、彼はただ穏やかに、猫と一緒の時間を楽しんでいるようだった。


(・・・ふーん・・・)


冨士原さんのことを、ちょっといいな、と、思ってしまった。

別に、恋に落ちたとかではなくて、胸の奥の、どこか・・・わからないけど、素敵だなって思う感覚。


(・・・正直、それすら予想外なのだけど)


自分の気持ちに戸惑って、誤魔化すようにアイスコーヒーをゴクゴク飲んだ。身体は少し冷えたけど、気持ちは別に、変わらない。

「いつも一人で来るって言ってましたけど・・・誰とも、ここに来たことはないんですか?」

聞いた後で、私は、ハッとなって少し焦った。このタイミングで、どうしてこんなことが気になってしまったんだろう。

「そうですね。ありません」

「・・・友達とも、ですか?」

「ないですね。本当に、真木野さんは酒の勢いというか、犬に対抗心が出たというか・・・思い出すと恥ずかしくなりますが。すみません」

冨士原さんは、ぴったりと身体に寄り添った二匹の猫を撫でながら、少しだけ赤くなった顔で伏し目がちにそう言った。

私は、「いえ」と軽い返事をしたけれど、内心とてもほっとした。


(そうしたら・・・私は本当に、初めてここに、一緒に来た相手なんだ)


自然と顔がほころんだ。だけどここで、私は再びハッとする。


(い、いやいやいやいや・・・だから、なんだっていうの!)


まるで私が、冨士原さんを好きみたい。

違うけど。

違うけど、まるで好きみたいな反応じゃない・・・!!
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