猫になんてなれないけれど
ズズズズズ・・・という音がして、私は、またハッとなって我に返った。

気がつけば、アイスコーヒーを飲み干して、それでもストローで吸い続けていたようだった。


(うわ、サイアク!!)


そういえば、呼吸もちょっと苦しいし。なにやってるんだろう、と、慌ててグラスを座卓に置いた。

「・・・。もう一杯飲みますか?」

「い、いえ、大丈夫です」

絶対へんに思われた・・・。

そう思って心の中は焦りまくっているけれど、何事もなかったように私は冷静を装った。


(けど、サイアク、サイアクだ・・・。本当、なにやってるんだろう)


一生懸命心を落ち着かせていると、タイミング良く私のところに茶トラの猫が来てくれた。

手を出すと、クンクン、と匂いを嗅いでから、何度か指を舐めてくれた。


(かわいい・・・。そして、キミは救世主だよ・・・)


心の中でお礼を言って、茶トラ猫を撫でみる。茶トラ猫は、気持ちよさそうに目を細め、もっと撫でてと伝えているかのようだった。

冨士原さんがくすっと笑う。

「かわいいでしょう、猫」

「・・・かわいいです」

「じゃあ、猫派に変わりましたか?」

「そんな簡単に。それに、それとこれとは別ですよ」

「・・・そうですか。残念」

冨士原さんがまた笑った。楽しそうに。穏やかに。そして私は、なぜか、頬が熱くなっていた。


(・・・おかしい)


さっきから、私は絶対にとてもおかしくなっている。

それは自覚しているけれど、なぜおかしいのかって、その原因は考えないことにした。





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