猫になんてなれないけれど
猫カフェを出たのは、夕方の5時を回った頃だった。あっという間に感じたけれど、3時間くらいいた計算で、結構のんびりしていたらしい。

冨士原さんとは、たくさん話したりはせず、ただまったりと一緒に時間を過ごした感じ。

そして結局、猫カフェの代金もおごってもらい、私は少し恐縮していた。

「よかったら、今度は私がどこか・・・あ、ドッグカフェにお連れします」

帰路に向かう車の中。私が言うと、冨士原さんは前を向いたまま、無表情で「いえ」と言った。

「今日は私が強引にお誘いをしたことなので。そういった事はお気遣いなく」

「・・・でも」

「本当に。・・・ああ、お礼なら、私じゃなくて、時々また今日の店に行ってください。あそこは保護猫カフェなので、売り上げが保護活動にもつながりますから」

「・・・はい・・・」


(『私じゃなくて』ということは、個人的に一人で行ってほしいっていうことだよね・・・)


寂しさを感じたけれど、「また一緒に行きませんか」なんて台詞は言えないし、そんなことを思っている気持ち自体をなくしたくって、私は少し話題を変えた。

「・・・冨士原さん、今は猫飼っていないんでしたよね」

「ええ。今の住居は、知り合いに借りているマンションで。動物禁止なんですよ」

「そうなんですか・・・。だから、猫カフェに会いに行くんですね」

「はい。そろそろ飼おうかと考えていた矢先に転職をして、今のマンションに移ったので。当分飼えないですからね」


(ん?転職?)


聞き流せなくて、冨士原さんに質問をする。

「冨士原さん、転職して警察官になったんですか?」

「はい。元々は、IT系のセキュリティ会社で働いていたんです」

「セキュリティ会社・・・」


(それは意外・・・)


「7、8年くらい前かな、大学時代の先輩に・・・今住んでるマンションの所有者なんですけど、その先輩が当時警察官をしてまして。セキュリティエンジニアを募集してるから中途採用を受けてみないかと声をかけられて」

「はい」

「自分が警察官になるなんて、考えたこともなかったんですけどね。当時勤めていた会社が、ブラック企業並みに忙しいところだったので。長く勤めるのは無理だと考えていた時でした。

剣道は、小さい頃警察署で習っていたので馴染みはあったし、特技がそこで生かせるならと、採用試験を受けるだけ受けてみようと考えて。そうしたら合格したので。転職しました」
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