猫になんてなれないけれど
翌日に仕事がある時は、萌花のお店・・・「はなの季」に行くことはなるべく控えているけれど、今日は無性に、行きたい気持ちになっていた。

週末の、冨士原さんとの出来事を、萌花に聞いてもらいたい。

別に、好きになったわけではないから、恋の悩みを相談しに行くわけではなくて。

・・・そう。そういうわけではないんだけども。

心の中がざわざわしすぎて、ただ、萌花に会って話を聞いてほしかった。



職場から、電車に乗って2駅隣。

仕事が終わったその足で、私は「はなの季」へと向かって行った。

紺地に白い店名の入った暖簾をくぐり、カウンター席に腰掛けて、いつものお酒と料理を頼む。

日本酒をゆっくり飲みながら、私は、冨士原さんとの関係や、これまでの経緯を順に萌花に話していった。

一通りの話を聞いた後、萌花は「なるほどねえ」と言って、嬉しそうな顔をした。

「じゃあ、早く付き合っちゃいなよ」

「・・・は?」

「好きなんでしょう?早く告って、早く付き合っちゃえばいいじゃない」

当たり前のように萌花は言った。私は、驚きとともに落ち着かない気持ちになってくる。

「だから、別に、好きになったわけではないよ」

「そうなの?好きな人ができたっていう報告にしか、私には聞こえなかったけど」

萌花が笑う。私のココロは、ざわざわと騒がしくなってくる。

「その・・・もちろん、いいな、とは確かに思うんだけど、普通にこう・・・人として、いいなって思っただけだと思う。恋愛対象としてはそもそも私のタイプじゃないし、向こうも絶対タイプじゃないし、先生の友達だし・・・元々は、患者さんなわけですよ」

私の言葉に、萌花は「ふーん」と言ってにやにやとする。

「そんなの、何も関係ないじゃない。それに、美桜の好みのタイプじゃないって、今までの彼氏とタイプが違うからでしょう?写真しか見たことないけど、宗田さんもその前に付き合ってた人も、すごくチャラい人だったじゃない。美桜、本当は、落ち着いた人の方が相性いいかもしれないよ」

萌花に言われ、私は、何度か両目をパチクリとした。

「チャラかった?今までの彼氏」

「チャラかったよ。やだ、気づかなかったの?写真だけでも軽そうだなってわかったし、実際浮気者だったじゃない」

「・・・」


(確かに・・・)


「チャラい」というか、「かわいい系」だと思っていたけど。そうか、チャラい・・・そう言われると反論できない・・・。

口ごもっていると、途中でお店にやって来て、いつの間にか隣に座っていた門脇さんが話に入る。
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