猫になんてなれないけれど
「萌花ちゃん、最近、へんな客とか来なかった?」

「・・・うちは、来てくれるのはほとんど常連さんだから。たまに一見さんもいらっしゃるけど・・・記憶に残るような、へんなお客さんは来てないです」

「そっか・・・。いや、昨日、他の店検索してた時にたまたま見てさ。しかも、ここ数日にそういう投稿がなぜか集中してるんだ。だから、最近なんかあったのかなって、ちょと心配になったんだけど」

萌花は、自分のお店の評価ページを見返して、憤りながら、泣きそうな顔になっていた。

「あ、ご、ごめんっ、黙ってた方がいいか悩んだんだけど。もし、へんな客に嫌がらせとかされてるのかもって思ったら」

萌花の様子に、門脇さんはオロオロとする。

私も、萌花のこんな顔を見たのは初めてだったし、評価のことも悔しく思って、胸がぎゅっと痛くなる。

「常連さんはサイトも別に見ないだろうし、見たとしても、嘘だってことはわかるだろうけど・・・。サイトの管理者に、削除依頼とか出せないのかな」

私が言うと、門脇さんも「うん」、と頷く。

「オレも通報連絡だけはしといたけど・・・昨日の今日だし、今のとこ変わってないんだよね。けど、萌花ちゃんが言えば早く対応してくれるかもしれない」

「・・・そうですね。できることはしてみます。けど、なんで・・・」

呟いて、しばらく視線を落とした後で、萌花は急に、はっとなった顔をした。そして、落ち着かない様子で視線を宙に彷徨わす。

「萌花?」

「・・・」

「どうしたの?もしかして、なにか心当たりがあるの?」

尋ねると、萌花はぎゅっと唇を噛み締めた。けれどすぐ、無理して作った笑顔で言った。

「ううん。ごめん、なんでもないよ。ごめんね、心配かけて・・・。とりあえず、あとでサイトに連絡してみる」

そう言うと、「ありがとうございます」と門脇さんにスマホを返した。

明らかになにかに気づき、けれどそれを、心の中に押し込めている雰囲気だった。

そして、私たちには触れてほしくなさそうに、あからさまに話題を変えた。

「・・・」

そんな萌花にこれ以上、私も門脇さんも、踏み込むことはできなくて。

今は萌花の「大丈夫」を信じることしかできなかった。







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