猫になんてなれないけれど
翌日も、仕事帰りに「はなの季」に行くことにした。

連日お店に通うのは、私にはめずらしいことだけど、昨日の今日で、へんなお客が来てないか、そして、萌花の様子も気になった。

冨士原さんに相談しようか・・・と、少し迷ったりもした。

気軽に相談できる仲ではないけど、仕事柄、ネットの世界には詳しいだろうと思うから、もし、相談にのってもらえたら心強いと考えた。

だけど、萌花から頼まれたわけでもないし、そもそも萌花は、踏み込んでほしくなさそうだった。勝手なことはさすがにできない。

それに昨日、サイト側に連絡をすると言っていたから、問題はもう解決に向かっているかもしれない。そんな淡い期待もあった。



最寄り駅から続く歩道を歩き、私は、いつものように「はなの季」へと足を進めた。

あと10m程でお店の入り口。

見慣れた暖簾を眺めていると、店の中から、慌てた様子で出てくる何人かのお客さんの姿が見えた。


(ん?あれって、常連の石原さんたち・・・)


どうしたんだろう。

とても嫌な予感がした。早足で店へと急ぎ、勢いよく引き戸を開けると。

ガツッ!

「きゃっ!」

目の前に何かが転がり込んできて、驚いて叫んでしまった。足下を見ると、門脇さんが「いてえ・・・」と頬を押さえて倒れ込んでいた。

「か、門脇さん!どうしたんですか!?」

その場にしゃがみ、門脇さんの顔を覗き込む。左の口角から、少し血がにじんでいる。

「やだ!大丈夫ですか!?」

「あー・・・ひや、あのさ」

口の中も切ったのだろう。門脇さんは、痛みで上手く話すことができないようだ。

その時、背後から影が差しこんで、陰気な気配を肌で感じた。

「お嬢さん、今日は早く帰った方がいいよ~」

いやらしく、嫌悪感を感じる声。振り向くと、ガラの悪い大きな男が立っていた。

「さっき食べた料理にさあ、ガラスの破片入ってたの。ここの店、客殺す気だよ?やべえよなあ」

男は、にやにやしながらそう話し、1cmくらいのガラス片を私に見せた。透明の、薄いガラス片。私は一目で、それは嘘だと確信をする。
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