猫になんてなれないけれど
「それ、どこかから持ってきたんじゃないですか?ここの店で、そんな薄いガラスの素材、コップも器も、使っていないはずですよ」

立ち上がり、男に向かって言い放つ。

見上げると、165cmの私より、20cmくらい背が高い。

いやらしい笑顔といかつい体に嫌悪と恐怖を感じたけれど、ここで引くわけにはいかないって強く思った。

「あー?なんだねえちゃん」

笑顔が一変、男は、怒りの表情で私にずいっと近づいた。

思わず一歩下がったけれど、これ以上は絶対引かない。私は、男をにらみ返した。

「み、美桜っ・・・」

「美桜ちゃ、ちょ、やめ」

萌花の声と、門脇さんの心配そうな声が聞こえたけれど、私は、ここを絶対動かない。

「料理で使うお皿はもちろん、ビールのグラスも、この店は乳白色のグラスです。透明のガラスの食器は、ここでは使っていないはずですよ」

「はあー?なんだねえちゃん、さっきからゴチャゴチャと。おまえ、この店の関係者か」

「・・・友人です」

「友人?へー・・・ただのお友達が、店のこと全部知ってるのかなあ」

「・・・っ!」

男が、私の胸ぐらをグッとつかんだ。

よりによって、今日の服は襟の詰まったブラウスだ。なんていうタイミング・・・。

真上からにやっと笑いかけられて、さすがに恐怖に震えてしまう。

萌花と門脇さんが何かを言う声が聞こえてきたけれど、今は、怖さで耳に入らない。

男が拳を持ち上げる。

殴られるかもしれない、と、背けるように目を閉じた・・・その時だった。

ガラッ!

勢いよく、店の引き戸が大きく開いた。私はもちろん、多分そこにいた全員が、引き戸の方へ目を向けた。

「!?」

その、引き戸を開けた人物を見て、私は心底驚いた。

だってそこに立っていたのは、スーツ姿の冨士原さんだったから。


(な、なんで!?)


冨士原さんも、私を見てとても驚いた顔をした。

けれどそれは一瞬で、男を見ると、すぐに冷えた目つきに変わった。

ツカツカとこちらに歩み寄ってきて、男の腕をひねり上げると、私の胸ぐらから一瞬で手を離させた。

「い、いててててててっ!なんだよてめえ!」

「警察だ」

冷静な口調でそう言うと、冨士原さんは警察手帳を取り出した。

男は、「げっ」という顔をして、私たちを押しのけて慌てて店を飛び出していく。

「きゃ・・・っ」

男に押しのけられたはずみで、私はぐらりとよろけてしまった。けれど、冨士原さんが手を伸ばし、私の身体を支えてくれた。

「大丈夫ですか」

「は、はい、すみません、大丈夫です・・・」
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