猫になんてなれないけれど
「・・・ないです」

小さな声に、相澤先生が「ん?」と言って聞き返すように私に一歩近づいた。

・・・先生は、悪くない。

先生が意地悪を言った訳ではないけれど、今はその笑顔と言葉が、私には、なによりつらいものだった。

「昨日、フラれてしまったので。デートの予定は、今後もないです」

淡々と、冷えた口調で言う私。

相澤先生は、「え」とその場で固まって、歩いていた永田さんと天川さんも、「え!」と私を振り向いた。


(・・・そうだよね・・・。みんな驚くと思う)


元彼の宗田祥悟(そうだしょうご)とは、以前勤めていた職場が同じで(といっても彼は放射線技師)、2年の間付き合っていた。相澤先生とも面識がある。

結構仲がよかったし、私はもう29歳。彼も同じ歳なので、そろそろ結婚の話もでるかなって、私は勝手に期待をしていた。周りからも、そんな風に言われていたし。

「あ、え、宗田くんと、そうなのか」

「はい。そんなわけなので・・・来週、大丈夫ですから」

「お、おお・・・。じゃあ・・・頼んだぞ」

戸惑っている先生に、私はコクリと頷いた。

大丈夫。こんな時は、仕事をしている方が気分的には楽だから。

「それじゃあ、お先に失礼します」

戸惑ったままの先生と、呆然としている永田さんと天川さんに会釈して、私は、涼しい顔でその場をすぐに立ち去った。




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