猫になんてなれないけれど
「・・・なるほど。それで、先ほどの状況に繋がっていくわけですね」

冨士原さんに確認されて、私は「はい」と頷いた。

「この子・・・萌花は学生時代からの友達なんです。お店には何年もずっと通っているし、使っている食器の種類も覚えています。

それにそもそも、萌花があんなガラス片に気づかないなんてあり得ない。だから、あの人の言うことは絶対に嘘だって思って」

私の言葉に、冨士原さんは「そうですか」と呟いてから、鋭い視線を私に向けた。

「真木野さんの気持ちはわかります。ですが、そのような行為は危険極まりないですよ。危うく殴られるところだったでしょう。ああいう男は、女性でも容赦しませんよ」

「・・・けど、絶対に嘘だと思ったし、それは許せないって思って・・・」

あの時、反論しないって選択は私にはなかったけれど、冨士原さんの眼差しに、怯んでしまい口ごもる。

「すいません、オレが、止められなかったせいで」

下方から、声が聞こえた。

今まで、「だいじょーぶだいじょーぶ」と呟きながら、床に寝ていた門脇さんが、よろよろしながら立ち上がり、申し訳なさそうに言葉を挟んだ。

そして、「美桜ちゃんごめん」って私に謝る。口元には、まだ、痛そうに血がにじんだままで。

「最初、男が萌花ちゃんに文句つけてた時に止められればよかったんですけど・・・。止めようとしたら、殴られるわ伸びるわで。

美桜ちゃんのことは、見ているだけになっちゃって。ほんとに、情けないし申し訳ないし、かっこ悪いんですけどね・・・」

うつむいた門脇さんを、冨士原さんはじっと見た。そして、表情を変えずに呟いた。
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