猫になんてなれないけれど
「情けなくないですよ。真木野さんのことは、倒れてなければ助けに入っていたでしょう。それに、萌花さんを守ろうとして殴られたんですよね。かっこいいじゃないですか」

「え、あ、いや、そんな感じでは」

言われた言葉に照れたのか、門脇さんは顔が真っ赤になっていた。

萌花ははっと気づいたように、おしぼりを手に持って門脇さんに駆け寄った。

「ごめんなさい、血、拭いていなくて」

「あ、うん、大丈夫・・・」

萌花に口元を拭ってもらって、門脇さんはさらに赤くなっていた。

痛そうに顔をゆがめたけれど、とりあえず、萌花にされるがままになっている。

「ところで・・・冨士原さんは、どうしてここに」

私たちの話が一段落したところで、冨士原さんに聞いてみる。

ここに、突然現れたその理由。あのタイミングで来てくれて、私は、とても助かったけど。

「ああ・・・。あの子に、助けを求められたんですよ」

冨士原さんの視線の先に、萌花の一人娘、椿ちゃんの姿があった。

入り口のすぐ脇で、怯えたように立っている。萌花が気づき、門脇さんから離れて椿ちゃんの元に駆け寄った。

「椿っ、夜は下に降りて来ちゃダメっていつも言っているでしょう」

「だ、だって、怖い声が聞こえたから。それで、お母さんが怒られてたから。門脇さんがけんかしてて・・・怖くなって、誰かに言わなきゃって思って」

ずっと我慢していたのだろう。潤んでいた椿ちゃんの瞳から、ポロポロ涙が落ちていく。

萌花はつらそうな表情で、「もう!」と椿ちゃんを抱きしめた。
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