猫になんてなれないけれど
「お嬢さんが、泣きそうな顔で外に出てきたところをちょうど通りかかったんですよ。仕事で近くに来てまして・・・仲間と数人で歩いていました。

制服を着ている者もいましたからね、警察官だとすぐにわかったんでしょう。助けてほしいと駆け寄ってきました」

「椿・・・」

椿ちゃんは、萌花にぎゅっとしがみつく。

あの時。冨士原さんたちは、椿ちゃんの話を聞いて、誰かが一人乗り込めば、犯人はすぐに店から逃げるだろうと予想して、冨士原さん以外の警察官は外で待機していたらしい。

まさに予想は的中で、先ほどの男はすぐに確保へ繋がった。

「はじめてですか、ああいう客は」

冨士原さんに問いかけられて、萌花は「はい」と頷いた。けれど、不安げに視線を彷徨わせている。

「萌花・・・この前の、サイトのことを話したら」

「ああ・・・うん、けど」

「椿ちゃんも怖がってるし、もし関係あったら困るじゃない。冨士原さんは警察官だし・・・聞いてもらった方がいいよ」

「・・・うん・・・」

気が乗らないようだったけど、萌花は、飲食店の口コミサイトの件を話した。冨士原さんは、「そうですか」と頷いて、眼鏡を右手で押しあげた。

「タイミング的に、無関係ではなさそうですね。なにか、心当たりはありませんか」

「ええ・・・・・・でも、大丈夫です。サイトに削除依頼は出しましたし、それで、対応してくれたようなので。・・・大丈夫です」

全然大丈夫じゃなさそうな顔で萌花は言った。余計に心配が募っていく。

「もし、何かあるなら聞かせてください」

「・・・ありがとうございます。けど、本当に大丈夫です。さっきの人も捕まったんですもんね。もし、またなにかあった場合には、きちんと相談しますから」
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