猫になんてなれないけれど
『これ以上、踏み込まないで』


萌花の心は、そう訴えているようだった。

絶対になにかを抱えてる。それだけはわかるけど、必死でなにかを守ろうとしている萌花に対し、それ以上は、冨士原さんも踏み込むことはしなかった。

「・・・わかりました。それでは、なにかあったらいつでも。警察にご連絡ください」

「はい。ありがとうございます。美桜も門脇さんも・・・ありがとうございました。今日はもうお客さんも来ないでしょうし、椿もこんな感じですから・・・お店も閉めますね」

萌花の言葉を受けて、私たちは店を出た。

シャッターを閉める前、門脇さんが「心配だから泊まっていこうか」と言葉をかけたけど、萌花は「違う意味で心配だから大丈夫です」と笑顔で断った。

「大丈夫?ほんとに」

「平気だよ。シャッター閉めたら誰も入って来れないし。なにかあったらさすがにちゃんと警察に電話するから大丈夫。ほら、もう帰って。私も、椿寝かさないといけないから」

そう言うと、萌花はそのままシャッターを下ろした。

私と門脇さん、冨士原さんは、何も言えずにその光景をただ見守るように眺めていた。

「・・・彼女の言葉を信じるしかないですね。管轄の警察に見守りの依頼は出しますが」

「お願いします・・・」

心配だけど、これ以上、今、ここで私にできることはなさそうだった。

あとは、萌花を信じることと、警察の見守りを信じることと、萌花が抱えこんでいるなにかが、無事に、早く解決することを願うだけしかできない気がした。

冨士原さんは、気持ちを切り替えるように息を吐き、私と門脇さんに向き直る。

「近くに車を停めていますので。よかったら、お二人とも家までお送りします」

「あー・・・、オレは大丈夫です。心配なんで、もう少しだけ様子見てますよ」

冨士原さんの提案に、門脇さんがそう言った。

目線の先は、「はなの季」の2階。萌花と椿ちゃんの自宅に電気がついた。
< 64 / 169 >

この作品をシェア

pagetop