猫になんてなれないけれど
「あっ、ストーカーになりますか、これ」

「・・・いえ。大丈夫ですよ。警察官に堂々と宣言して部屋を覗くストーカーもいないでしょうから」

「ははっ、けど、やっぱ覗きになるか」

門脇さんは苦笑いした。冨士原さんも少し笑った。

「まあ、ご近所から怪しまれないうちに帰っていただければ。警官もすぐに来ますし、パトロールを強化しますから」

「はいはい。あ、美桜ちゃんは送ってもらいなよ。この人、昨日言ってた警察官でしょ」


(!?)


「ちょ、ちょっと門脇さん!」

なんでわかったんだろう。

焦って冨士原さんの様子を窺うと、不思議そうな顔をしていた。自分の話題が出ていたことに、きっと驚いたんだろう。

「ほら、帰って帰って。美桜ちゃん明日早いだろ。オレは在宅ワーカーだからさ、気にせず早く帰んなよ。おまわりさん、美桜ちゃんのことお願いしますよ」

にいっと笑って、門脇さんは私の背中をポンと押した。思わず一歩、冨士原さんに近づいた。


(う、うわ!)


また、抱きとめられる感じじゃなくてよかったけれど。私は、明らかに動揺していた。

富士原さんは、涼しい顔をしてるけど。

「了解しました。では真木野さん、行きましょうか。お送りします」

「はい・・・」

チラリと門脇さんを横目で見ると、「がんばれよー」とにやにやしながら小声で言われた。

私は「違う!」と返事して、歩き出した冨士原さんの後ろを緊張しながら追いかける。

何歩か歩いて振り返り、「はなの季」の2階に目を向けた。ちょうど、部屋の灯りが落とされたところだった。

「・・・」

椿ちゃんは眠れるだろうか。萌花もちゃんと、寝れるかな・・・。


(・・・何事も、ありませんように)


心の中で、何度も願う。そして再び前を向き、冨士原さんを追いかけた。









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