猫になんてなれないけれど
数分間歩いた先の駐車場に、黒い車が停まっていた。

パトカーだとはわからないけど、警察の車ということだった。

「・・・すみません。お手数おかけして」

後部座席に座った私は、シートベルトを締めながら、運転席に向かって言った。

冨士原さんは、バックミラー越しに私を見てから「いえ」と軽く返事する。

「ここから真木野さんのご自宅まで15分程度だと思うので。全く問題ないですよ」

「ありがとうございます・・・」

エンジンがかかり、車がゆっくり走り出す。車窓から見える風景は、繁華街の賑わいから、落ち着いた街の景色に変わっていく。

仕事の疲れはあるけれど、萌花に対する心配と、冨士原さんと2人きりという状況に、緊張で背筋が伸びていた。

「寝ててもいいですよ」と冨士原さんは声をかけてくれたけど、寝れるような気分じゃなくて、大丈夫だと私は答えた。

「冨士原さんは、これからまだお仕事ですか?」

「はい。真木野さんをお送りした後、署に戻ります」

「そうですよね。お疲れ様です・・・」

猫カフェに行って別れた後は、また会いたいな、なんてぼんやり思っていたけれど。こんな状況の中での再会は、正直複雑でもあった。

「萌花、大丈夫かな・・・」

思い出して、私はふいに呟いた。バックミラー越しに、冨士原さんの視線を感じる。

「彼女は、真木野さんのご友人なんですよね。同級生ですか?」

「はい」

「じゃあ・・・かなり若い時に子どもを授かったんですね。あのお嬢さんは、小学生ぐらいでしょうか」

「・・・はい」

萌花のことをどこまで話していいのかわからずに、最低限の返事だけをした。

けれど同時に、今日のことや、飲食店サイトの件に些細なことでも関係があるかもしれない、と思うと、話したいような歯がゆい気持ちも同時にあった。
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