猫になんてなれないけれど
「・・・そうですね。色々言われましたけど・・・とにかく、開き直られちゃったので」

そう。開き直られた。「そうだけど」って、悪びれた様子も一切なく。

「あー・・・そっかあ・・・」

それだけで、門脇さんは納得をしたようだった。

門脇さんが離婚をした原因も、奥さんの浮気だって聞いている。

気づいた時に「どういうことだ!」って問い詰めたそうだけど、やっぱり開き直られて、修復はもう不可能で、離婚に至ったそうである。

「焦るとか、謝ってくるならやり直す余地はあるんだろうけどね。開き直ってこられると・・・もうさ、完全にオレのことはどうでもいいのかーって、嫌でもわかっちゃうんだよね」

私は静かに頷いた。

もちろん、だからって簡単に納得できるものじゃなく。「なんで開き直れるの!?」って、私もそこで問い詰めた。

だけど、「そういうところが嫌なんだ」とか、「自由にさせてくれよ」なんて冷たい態度で言われたら・・・そこからはもう、引くしかなくて。

これ以上、嫌われたくはなかったし、言える言葉もなかったし、別れることに同意するしか道はなかった。

すごく・・・大好きだったけど。

「まあ、けど、美桜ちゃんまだ29でしょ。若いんだしさ、まだまだ出会いはいっぱいあるよ」

門脇さんはそう言って励ましてくれたのだけど、私には、それが真実だとは思えない。

「『まだ』って、『もう』29ですよ!もうすぐ30歳になっちゃうんです。もう、いい恋愛なんてできないかもって、やっぱり不安になりますよ・・・」

そう、あと半年で私は30歳になる。

うつむいて日本酒をグイッと飲むと、萌花は呆れたように息をはく。

「何言ってるの。『もう29』って、いつの時代の価値観よ。私だって同じ歳だけど、人生においてはまだまだだって思ってるよ」

「人生じゃなくて、恋愛限定!萌花はかわいいしモテるからわからないんだよ」

「もう・・・何言ってるの。こっちは未婚の子持ちだよ?モテるって、お客さんにかわいがっていただいてるっていうだけでしょう・・・。

私こそ、未婚の子持ちなんて恋愛のハードルはかなり高いと思うから。美桜は普通に独身でしょう?まだまだ全然、いい恋愛し放題だと思うけどなあ」
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