白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)


「まだ……好きなんですか? 
 十環先輩のこと」


「うん。 
 別れてからも、ずっと大好き」


 透き通った瞳を細め
 輝くような笑顔で答えた結愛さん。


「十環くんと別れてから
 親が決めた人と付き合ったの。
 結婚を前提にね。

 でも、やっぱりダメだったんだ。
 どうしてもその人のことが
 好きになれなくて。
 この人が十環くんだったらなって
 思っちゃって。

 だから、婚約を取り交わす日に
 逃げ出しちゃった。私。

 十環くんとまた付き合っても
 お父さんに反対されると思う。
 でも……
 十環くんじゃなきゃ……ダメなの」


 十環先輩のことが
 大好きでしかたがないという思いが
 伝わってきて
 私の心がヒリヒリと痛みだした。


 今の結愛さんの切なそうな顔を
 十環先輩が見たら、
 思いっきり抱きしめるんだろうな。


 『俺もずっと大好きだったよ』って
 結愛さんへの2年間分の思いを添えて。


 は~ 
 苦しいな。


 私なんて
 十環先輩の理想の女性と正反対で
 好きになってもらえるはずないって
 わかっていたけど、やっぱり苦しい。


 だって
 結愛さんと十環先輩は両想いで
 私が入り込める隙間なんて
 1ミリもないんだから。


 自分の心の中に
 グーで殴られたくらいの穴が
 ぽっかり開いて
 そこに冷たい風が吹き抜けていく。

 まるで
 十環先輩との二人だけの思い出を
 吹き消していくように。


 その時、恥じらいを含んだ表情で
 結愛さんが言葉を発した。


「桃華ちゃんに
 お願いしたいことがあるんだけど」


「え?」


「これをね、十環くんに渡してほしいの」


 キャラメルの箱?


「この中に、私の連絡先が入っているの。
 あと、十環くんへの想いも……
 明日学校で、渡してくれるかな?」


 ここでもキャラメルか……

 さすがにこの役は、やりたくないな。


 だって、結愛さんの想いが詰まった
 このキャラメルを渡したら
 十環先輩は絶対に喜ぶから。


 今まで見たことがないくらい
 くしゃくしゃな笑顔で
 心の底から喜ぶから。


 そんな十環先輩
 見たくないな。


 でも、必死に笑顔を作って
 結愛さんに向けた。

 私が十環先輩を大好きっていう思いが
 結愛さんにばれないように。


「私でよければ。
 責任をもって、十環先輩に渡します」


「ありがとう。
 もし渡せなかったら
 この番号に電話してくれる?
 このお店まで
 キャラメルを取りに来るから。
 よろしくお願いします」


 結愛さんは深々く頭を下げ
 そして帰っていった。
 

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