白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)
私の涙が収まったのを確認して
恋兄はドアに向かって歩き出した。
『ありがとう』って伝えたいのに
恋兄にどうしても素直になれない。
自分でも気づかずに
恋兄の洋服の裾をつかんでいた。
「桃?」
「……良いと思う?
明日のお昼休みが終わるまでには
結愛さんから預かったキャラメルを
十環先輩に渡すから。
結愛さんの想いも
ちゃんと伝えるから。
だから……
それまでは、
黙って十環先輩の隣にいても
いいと思う?」
「いいんじゃない。
桃がしたいようにすればさ」
私が欲しい言葉をくれた恋兄。
私を見つめる瞳が優しくて
また涙腺が刺激される。
「じゃあさ、明日のお弁当。
十環っちと楽しく食べられるように
お兄ちゃんがとびきり手の込んだものを
作ってあげる」
「やめてよ。
普通に食べられるお弁当にして」
「もも…… ひどいよ……
いつも桃の喜ぶ顔が見たくて
一生懸命デコ弁を作っているのに……」
「あれ、デコ弁なんかじゃないじゃん。
ただのグロテスクじゃん。
罰ゲームだって思って
食べてるんだからね」
「ひどいよ、桃。
桃のために
早起きして作ってるのにさ」
「でも……
恋兄のお弁当のおかげかも……」
「ん?」
「十環先輩とのお昼の時間が
とびきり楽しかったのは。
恋兄……
ありがとね」
恋兄に、笑顔でお礼を言えたのは
初めてのことかもしれない。
恋兄はなぜか
その場で石のように固まっている。