白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)
きっと、ラブラブハッピーな
歌なんだろうな。
私、失恋直後で
まだ完全には立ち直れていないのに。
そんな歌、
今は聞きたい気分じゃないんだけどな。
私が暗い気持ちを吐き出すように
ため息をついた時、
トイプーのスマホが鳴り出した。
「あれ、龍牙さんからだ。
もしもし……」
トイプーはテントから離れて電話をして
しゃべり終えると、また戻ってきた。
「桃華さんすいません。
僕、お店に戻ってくるように
言われちゃって」
「え?
だって、誰も車でお迎えなんて
来てくれないでしょ?」
「そこの駅から電車に乗って
帰って来いって。
お店に、僕のファンの子が
来ちゃったみたいで」
「そっか。
この前のバレンタインの時に
ウサギの格好をしてから
トイプーのファンの女の子も
増えたもんね。
お弁当を持って行ってね。
1個はトイプーのだから。」
「桃華さん、僕が帰る前に、
一つ聞いてもいいですか?」
「え? 何?」
「桃華さんって、まだ十環さんのことが
好きですよね?」
「は? 何それ?
もう完全に吹っ切れたから。
好きなんかじゃないから」
「本当に、嘘が下手ですよね。
桃華さんは」
「そんなこと……ないから……」
なんとかごまかしてみたけど
中1から私の隣にいてくれた
トイプーには、お見通しらしい。
「桃華さん、
『泣きたいときには
僕のところに来てください券』
残りの2枚って、今持っていますか?」
「ああ。財布に入れてあるけど」
「出してください」
「今?」
「はい」
「私、
今は泣きたい気分じゃないからね」
そう言って私は
財布からバレンタインにもらった
券を出すと
トイプーに差し出した。
「え?
ちょ……ちょっと……」
全く予想もしていなかった
トイプーの行動に
アタフタしてしまった。
だってトイプーが
自信満々な笑顔を私に向けながら
その券をビリビリに破いたから。