白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)

「だって……
 心から笑えるようになって
 欲しかったから、十環先輩に。

 仮の彼女として隣にいる時から
 ずっと思っていました。

 十環先輩って、
 悪魔モードの時には無邪気な笑顔を
 見せてくれるのに。
 悲しい瞳をしたまま必死に笑顔を
 作っている時もたくさんあって。

 きっと、結愛さんとのことを思い出して
 辛いんだろうなって。

 結愛さんが私のお店に来て
 十環先輩が好きだって言われたとき
 十環先輩はもう
 こんな悲しく笑うことは
 なくなるかもって思ったんです。

 でも
 また結愛さんのお父さんに反対されて
 引き裂かれちゃったら、
 悲しみを隠すように
 また笑い続けるのかなって思ったら
 どうにかしてあげたいなって思って」


「俺、桃ちゃんと一緒にいる時に
 そんな酷い顔で笑っていた?」


「はい。
 私をいたぶって楽しんでいる時の笑顔と
 違いすぎて、
 見ているのが痛々しかったです」


「そっか、俺
 桃ちゃんの前で
 そんな情けない顔をして
 笑っていたんだね」


「十環先輩
 そんな悲しい顔をしないでください。
 結愛さんに言われたんですよね? 
 十環先輩のことが好きって」


「うん。言われた」


「結愛さんのお父さんは?」


「俺のこと、気に入ってくれた」


「良かったじゃないですか。

 この、大量のスルメ、返しますから。
 十環先輩が暗い顔をした時には
 結愛さんに頼んで、このスルメの頭で
 ツンツンしてもらってください。

 十環先輩がドMモードの時には
 そういうこと、されたいでしょ?」


「だから俺は、Sだから」


「そうですか? 
 さんざん私に
 女王様をやらせておいて」


 十環先輩を笑顔にしたくて。
 私が声を上げて笑ってみたのに。


 相変わらず
 笑顔を見せず硬い表情の十環先輩。


 いきなり机の上の橋を手に取ると
 卵焼きを一気に口の中に入れた。
< 181 / 209 >

この作品をシェア

pagetop