白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)

「桃ちゃん、
 俺、どうすればいい?」


 呉服屋とは別に
 お店にはもう一つレジがある。


 そのレジの前に立つ
 ツインテールのお姫様が
 俺にてきぱきと指示を出す。


「十環先輩には
 袋に入れる係を
 お願いしてもいいですか?」


「カウンター下の袋を使えばいい?」


「はい、お願いします」


 呉服屋さんなのに
 着物とは全く関係のない商品ばかりが
 売れていく。


 レジに並ぶ長蛇の列。


 その異様な光景も気にならないほど
 忙しい時間が飛ぶように過ぎていき
 昼前にやっとお客さんが途切れた。


「十環先輩、ありがとうございました。
 あとは私一人で大丈夫です。
 龍兄のとこ……」


「桃華さん!!」


 桃ちゃんの声をかき消すように
 龍や桜の刺繍入りのスカジャン集団が
 レジの前に現れた。


「俺たち、もう帰りますね」


「やっと帰ってくれるのね」


「もっと寂しがってくださいよ」


「ムリ。
 そんな感情、1ミリも湧き出てこないし」


「桃華さん、スルメのお返し。
 ホワイトデーに期待してますんで」


「俺、桃華さんの手作りチョコが良いっす」


「だから、スルメなんていらないから。
 持って帰れって言ってんの」


「じゃ、また来ますね~」


 桃ちゃんの言葉を無視するかのように
 笑顔で帰っていった集団。


 そんな集団の背中を見ながら
 少しだけニヤリとして
 桃ちゃんはつぶやいた。


「あいつら。
 スルメ持ち帰れって言ったのに」


 桃ちゃんの言葉が
 俺の胸に引っかかった。


 なぜだろう……


 なんか『嫌だな』って
 思ってしまったこの感覚は……
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