白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)

「十環先輩?」


 好き通った瞳が
 心配そうに俺を見つめている。


 頭の中が
 自分でも理解不能なほどグチャグチャで
 俺はごまかすように微笑んだ。


「なんでもないよ」


「がっかりしました?」


「え?」


「女のくせに
 こんなかわいげもない言葉使って」


 いきなり見せた桃ちゃんの
 陰りのある表情に
 俺はなんて言ってあげればいいか
 わからない。


 他の女の子たちには
 『そんなことないよ』とか
 『それでもかわいいよ』とか
 平気で口から出てくるのに。


 なぜかツインテールのお姫様には
 言えない自分に戸惑いを覚えた。


 何か言わなきゃ。
 桃ちゃんを笑顔にできるような何か。


「嫌かも。俺。
 桃ちゃんがその……
 中学のお仲間さんとかに
 あんな態度とるの」


 何を言っているんだろう。 俺。


 桃ちゃんが喜ぶような言葉を
 かけてあげるつもりが
 素直に思ったこと
 そのまま口にしちゃって。


「俺に……」


「そうですよね。
 十環先輩の好きな女の子のタイプって
 かわいくて守ってあげたくなるような
 子ですもんね」


 俺の言葉をかき消した桃ちゃんの声が
 なぜか俺の心を
 じんわりと冷やしていく。


「私と正反対の子ですよね。
 十環先輩の好きなタイプって」


 アハハと桃ちゃんは笑っているのに
 瞳の奥が悲しく光っているように
 見えてしまうのは、勘違いだろうか。


 俺が放った言葉が
 桃ちゃんを傷つけてしまった気がして
 後悔の波が押し寄せてきた。


 その言葉に込めた本当の想いを
 伝えようと思った時には
 桃ちゃんはすでに
 カウンターから出て行ってしまった。


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