白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)

「クッキーは買ったものですけど、
 これは……僕が作ったもので……」


「何?」


「『泣きたいときは
 僕のところに来てください券』です」


「は?」


「3枚入っていますから。
 好きな時に使ってください。

 僕に電話をくれれば
 何時でもどこにいても
 桃華さんのところに駆けつけますから」


「私、泣かないからね」


「泣くじゃないですか。
 この前だって
 『六花が北海道に行っちゃう』って
 大泣きだったし」


「あれは……」


「僕、嬉しかったんですから。
 あの時、僕のことを頼ってくれて」


 二人の会話を聞いていると
 耳を塞ぎたくなる。

 この場から
 逃げ出したいなって思う。


 桃ちゃんが俺に見せる姿は
 本当の桃ちゃんなんかじゃないから。


 その時、桃ちゃんが
 何かをトイくんに手渡した。


「桃華さん、これって?」


「一応、バレンタインだから」


「もしかして、手作りですか?」


「ついでだからな。
 トイのために作ったわけじゃないからな。

 それに、味の保証はしない。
 これを食べて入院しても
 責任なんてとらないし
 見舞いにもいかないから」

 
 はずかしさをごまかすように
 勢いでしゃべる桃ちゃん。

 桃ちゃんの頬が真っ赤に染まっていて
 俺には見せないその表情に
 なぜか胸がチクチク痛みだした。


 トイくんの飛び跳ねるような声が
 さらに俺の心を刺激する。


「これ、キャラメルですか?
 僕の大好物、よくわかりましたね」


「だから、トイプーのはついでだって
 言ってるでしょ。

 あ~、もう。
 なんかキャンキャンうるさいから
 あげる気失せた。
 いますぐ返して」


「嫌です。 絶対に嫌です。
 キャラメルをくれないなら
 俺のクッキーもあげませんからね」


「だから
 別にクッキーなんていらないし」


「そんなこと言うと
 『泣きたいときは
 僕のところに来てください券』も
 あげませんからね」


「それこそ、いらない」


「本当に良いんですか?
 桃華さん、意外に涙腺弱いくせに」


「隠してるんだから、誰にも言うなよな」


「わかってますよ。
 誰にも言わない代わりに
 桃華さん手作りのキャラメル
 くれますよね?」


「ま、もともとトイプーに
 あげるつもりだったし。
 いいけど」


「やった~」



 小学生?っていうくらい
 わかりやすく喜んでいるトイくん。


 桃ちゃんがトイくんに
 バレンタインをあげた瞬間を目撃して
 なぜか俺の頭の中が
 いろんな感情で
 ぐちゃぐちゃになっていた。

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