白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)
「なんて言うか……
ちょっと嫌だなって思っちゃったから。
トイくんとかには
言いたいことをズバズバ言うのに
俺には……その……」
そのまま口を閉ざした十環先輩。
耳まで真っ赤になった顔を
右手で隠し俯いている。
「十環……先輩?」
「だからさ……
俺にも見せてくれない?
素の桃ちゃんをさ」
十環先輩に見せる?
素の私自身を?
恥ずかしそうにうつむく
十環先輩を見ていると
私まで恥ずかしくなってきてしまった。
それってヤンキー言葉で
ののしって欲しいってこと?
もしかして……
十環先輩……
「ドM?」
口に出すはずじゃなかったのに
『ドM』という単語だけが
口からもれてしまった。
「俺、ドMじゃないし。
どっちかというと……Sの方だし……」
なんか、目の前で
オロオロしている十環先輩が
かわいく感じてしまう。
いつも余裕&品があって
笑顔で微笑んでいるイメージなのに。
落ち着きがなくあたふたしている姿が
子供っぽくて
初めて見る一面を見れたことが
嬉しくなった。
「十環先輩、
前言撤回したほうがいいですよ」
「なんで?」
「私が十環先輩に
素の自分をさらけ出しちゃったら
とことん十環先輩のこと
イジメちゃいますから」
笑いが抑えきれなくなって
私はアハハと声をあげていた。
「俺、そういうの慣れてるよ。
出会った頃の龍牙さんだって
俺のことをいじりまくっていたし。
でも今は、逆転してるからね。
俺がライオンで、龍牙さんがウサギに
見えちゃうこともあるくらい」
「龍兄がウサギ?
なんかわかる気がする」
「桃ちゃんと話しているとさ
落ち着くんだよね。
TODOMEKIのみんなと話している感じに
近いからかな。
龍牙さんにも似ているし。
他の女子と
全然違うって思っていたんだよね」
落ち着く存在か。
十環先輩にとっては
私は恋愛の対象外。
気の合う男友達くらいにしか
思われていない。
でも
そんな関係でもいいのかもしれない。
あと半月間。
先輩が卒業するまでの間だけ
夢みたいな時間を過ごせるのなら。
そんな風に思えた時
十環先輩が穏やかな瞳で
私を見つめてきた。