白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)
十環先輩と並んで
廊下を歩く。
さっきの騒ぎで
もう噂が広まってしまったみたい。
十環先輩と私が、付き合っているって。
女子たちの恨みがこもった視線が
背中にチクチク刺さって
十環先輩の話が全く耳に届かない中。
「ダメ?」
その言葉だけが
しっかり耳に入ってきた。
「え?」
「もう、桃ちゃん。
俺の話、聞いてなかったでしょ。
もう一度言うからね」
なんだろう。
急に立ち止まってまで
伝えたいことなのかな?
「桃ちゃん
手をつないじゃダメ?」
十環先輩の言葉を理解するのに
10秒はかかった。
そして
「ひゃ!!」
一気に恥ずかしさが
体中を駆け上がってきて
口から変な声としてもれてしまった。
「手……手ですか?」
それは
ムリ、ムリ、ムリですよ。
だって私
男の人の胸ぐらを
つかんだことはあるけど
手なんてつないだことないし。
ましてや
学校のみんなに見られちゃうし。
その時
十環先輩の甘い声が耳元でこだました。
「塗り替えてくれるんでしょ?
結愛さんとの思い出」
そうだけど……
みんなの前で手をつなぐなんて
小学生よりも恋愛経験少ない私には
ハードルが高すぎだよ。
ドキドキの音が鳴りやまない心臓。
なんとか、声を絞り出す。
「ここじゃ、ムリ」
「え?」
「せめて……
二人きりの時じゃないと」
私の言葉を聞いて
十環先輩が悪魔スマイルを私に向けた。
「二人きりの時ね。
フフフ。
桃ちゃん、楽しみにしているからね」
十環先輩!
明らかに今、笑顔の裏から
悪魔が顔を出していましたけど。
学校のみんなに
王子スマイルを振りまく十環先輩。
私にだけに
悪魔スマイルを見せてくれたのが
嬉しくて
十環先輩のピンクベストの裾を
掴んでみた。
十環先輩は驚いたように
目を見開いた後
透き通る瞳を細めて微笑んだ。
「俺、洋服の裾をつかまれるの
好きなんだよね」
その言葉に
恥ずかしすぎて顔なんてあげられない。
ピンクベストの裾を離さないように
私は十環先輩の後をついて行った。