白雪姫に極甘な毒リンゴを 3 (桃華の初恋編)
「桃ちゃん、俺に言ったよね?」
「え?」
「塗り替えてくれるんでしょ?
結愛さんとの思い出」
「……言いましたけど」
「簡単には塗り替えられないよ。
俺、高校に入学して
初めて結愛さんを見た場所だから。
桃ちゃんはそんな俺に
何をしてくれるのかな?」
「う……」
俺の言葉に
どんどん追い詰められていく桃ちゃん。
中学のお仲間さんの前では
女王様なのに
今はオドオドしたウサギみたいに
弱っている。
そのギャップが
かわいくてたまらない。
そんな顔されたら
もっともっとイジメたくなるし。
「俺にも見せてくれるんだよね?
女王様姿の桃ちゃんを」
俺の言葉に反応するかのように、
いきなり右手に
フォークを握りしめた桃ちゃん。
そのフォークを頭上にあげ
その後、床に突き刺すように
勢いよく振り下ろした。
「桃……ちゃん?」
「十環先輩、唐揚げ食べますか?」
俺の目を見て
純粋な天使みたいに
ニコッと笑った桃ちゃん。
『この笑顔、かわいい』と思った直後
俺の体から
一気に冷汗が湧き出てきた。
だんだん桃ちゃんの瞳が
濁っていく。
とびきりの笑顔を
俺に向けてくれているのに。
獲物を絞め殺しそうなほどの
不気味な瞳が黒く光っている。
そして
俺の前にフォークに突き刺した唐揚げを
出した。
「十環先輩が喜ぶように
もっとおいしくしますね」
不気味な笑みを浮かべたまま
桃ちゃんは何かを
唐揚げにふりかけ始めた。
それって……
タバスコ?
ジャバジャバ、ジャバジャバ
振りかける手が、止まる気配がない。
ようやく手が止まったと安堵していたら
地獄からはい出てきた悪魔のような瞳で
ニヤリと笑った。
「はい。 唐揚げどうぞ」
う……
さすがにこんな
タバスコに漬け込んだかのような唐揚げ
食べられないし……
「桃ちゃん、
俺、辛いのが苦手でね……」
「へ~。辛いのが苦手なんですね~。
じゃあもっと
タバスコをサービスしますね~」
さらにタバスコを振りかける桃ちゃん。
そしてまた
不気味な笑顔とともに
唐揚げを俺の前に出してきた。
「世界一おいしい唐揚げですよ~。
さ~ 十環先輩。 口を開けて~」
「だから俺、辛いのムリだから」
「残念だな~
せっかく十環先輩に
食べてもらおうと思ったのにな~。
私の中学の下僕たちなら
喜んで食べるのに~」
絶対に食べない!と思っていたのに
今の桃ちゃんの言葉に心が揺らぐ。
『私の中学の下僕たちなら
喜んで食べるのに』
なぜだろう。
この言葉を聞いた瞬間から
胸がムカムカする。
それに
女王様を無理やりやらせたのは俺だし。
自業自得だよね。
しょうがないから食べるか。
食べる覚悟を決め
目をつぶって口を開けた。
その時
ゲホゲホむせるような声が耳に入り
あわてて目を開けてみる。
そこには
涙目になりながら
必死で水を飲む桃ちゃんの姿が。
桃ちゃんが
タバスコ唐揚げを食べたってこと?
「桃ちゃん? 大丈夫?」
ゲホゲホとむせる中
「大丈夫ですから」と答える桃ちゃん。
「本当に大丈夫?」
「だから大丈夫です。
タバスコを持ち歩くほど
私、辛いの大好きなので」
明らかに大丈夫じゃないよね?
強がっているのバレバレだけど。
瞳に涙がたまっているのに
こんな時まで意地を張っている
桃ちゃんに
『素直じゃないんだから』と笑えてくる。
ある程度落ち着きを取り戻した
桃ちゃんが、ぼそりと言った。