素直になりたい!
「お、お化粧してるから!落ちちゃう!」

楓がそう言うと、「相変わらず素直じゃないな〜」と翔太に笑われた。いつもそうだ。

中学、高校の頃はよく翔太には「大丈夫?顔色悪いよ」と声をかけられていた。友達が気付かない些細な体調の変化も、翔太にはいつも見破られていた。その度に、「平気!」と答えていたのだ。

「本当は……嬉しいのに……」

翔太がマグカップを片付けに行った時、楓はポツリと呟いた。



それから数日後、翔太の書いているファンタジー小説がついに完成した。楓の挿絵も描き終わり、もう仕事は終わりだ。

「担当さんにこの小説を渡したらもう終わりだね」

なぜか、嬉しそうではなく寂しげに翔太は言う。楓は訊ねた。

「どうしてそんなに寂しそうなの?」

「楓との仕事が終わっちゃったから」

子犬のような目で見つめられ、そんなことを簡単に言える翔太が楓は羨ましく思った。

「また仕事できるかもしれないでしょ?寂しがる必要はないよ」
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