王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
グランウィルはその後、オードリーがいる客間に向かう。
主人のいうことを頑なに了承しない、この厄介な客人を、グランウィルはやや疎ましく思っていた。
「オードリー殿、食事は終わりましたかな」
客間をノックすると、すぐに返事があり、空の皿を乗せたお盆を持ってオードリーがやってくる。
「ごちそうさまでした。……今日の料理は格別においしかったです」
「ああ。やはり分かるのですね。新しい料理人がひとり入りまして。今日はその男が賄いの担当だったものですから」
「新しい料理人ですか?」
「ええ。南方出身の男です。腕がいいので、すぐに家人の料理の専属に回されるでしょう。我々が食べられるのは今だけでしょうな」
「……そうなんですか」
オードリーは口もとを押さえ、うつむいた。
「このように、旦那様は力があればそれに報いる報酬をくださいます。そろそろあなたも観念して旦那様の力になったらいかがですか。今更、あなたが解放されるわけがない。他の人間が犠牲になる前に……覚悟を決めたほうがいいですよ」
脅しに似たセリフを口にして、グランウィルはその部屋を去った。