王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
脱走
薄曇りの早朝、城の裏口には、四人程度が乗れる大きさの馬車が用意されていた。
そこに、薄汚れた外套に身を包んだカイラが、ロザリーを伴って現れる。
「お待ちしておりましたよ。カイラ様」
待ち構えていたのは、アンスバッハ侯爵だ。
事前の話では、彼は一緒に行かないということだったが、黒の外套を羽織っている。
カイラは警戒心を覗かせながらも、おずおずとアンスバッハ侯爵に向き合った。
「侯爵様。お約束通りアイザックのことは誰にも伝えず、外遊してくるとだけ告げて出てまいりました。侯爵の部下は本当にアイザックを目撃したのですか?」
「それを確かめるため、カイラ様にご足労いただきたいのです。もちろん、護衛もこちらで用意させていただきました。道中、危険の無いように手練れを呼んでおります」
ロザリーはふたりの会話を後ろで聞きながら眉を寄せた。侯爵側の護衛など、むしろ危険なだけだからいらないと思う。場所だけ教えてもらって自分たちだけで行ったほうがいいのでは……と思ったところで後ろから声をかけられる。
「カイラ、どこに行くのだ」
カイラとロザリーが揃って振り向くと、そこには不機嫌そうな顔のナサニエルがいた。
カイラの判断で、今回の件はナサニエルに報告していない。だから、彼がここに現れたことが不思議で、思わず言葉を失ってしまった。