王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


 オードリーとレイモンドは、その後何度か本を使ってやり取りした。
レイモンドは、南方出身の料理人と言って侯爵邸に入り込んだらしい。
クリスはイートン伯爵邸で面倒を見てもらっていること、ザックが軟禁状態から解放されたことなど、レイモンドとのやり取りで、状況はある程度分かってきた。

(でも、だとすれば私をここにとどめておく理由は無くなる?)

侯爵がオードリーを保護した理由は大きく分けてふたつだ。
ひとつは、これまで要求されたように毒性鉱物の採掘へ協力すること。
もうひとつは、軟禁されているアイザック王子に、圧力をかける人質としての存在だ。

実際、オードリーはザックに対して影響力はないが、彼がイートン伯爵家と深いつながりがあることはよく知られているし、ふたりが拘束されたときにいたのは親しい間柄の人間だけだ。侯爵がオードリーを、アイザック王子を揺さぶる手段として考えてもおかしくはない。

でもザックが解放されたのなら、オードリーの価値は毒物に関する協力のみだ。そして、それはオードリー自身が頑なに断っている。

(侯爵が毒物に関心があるという事実を知ってしまった以上、簡単には解放してもらえない)

用済みだと判断されたとき、オードリーは自分の命があるとはとても思えなかった。

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