王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
そうして地盤を固めている間に、ケネスに早馬が届いた。
彼は手紙を受け取ると、その場で読み始めた。
ジョザイアとザックが見守っていると、ケネスは「へぇ?」と意外そうな声を上げた。
「……なんて書いてあったんだ?」
「どうした」
「君、記憶喪失状態で目撃されたらしいよ」
「は?」
「父上から急ぎの報告だ。アンスバッハ侯爵の情報で、カイラ様がおびき出されたらしい。訪問地が北のカラザの街以外の情報は分からないそうだ。クロエが入手してくれた情報だそうだよ」
どう考えても罠だ。それに乗るような母親か……と言われると、素直に乗るだろうという予測しかザックには立たない。
「……母上はよくも悪くも平民気質だ。人を疑うのは最も苦手だろう」
善良さが彼女の取り柄なのだ。そしてナサニエルが彼女に惹かれたのもその素直さと善良さにある。
「まずいな」
「まずいね。その場合、君の大事なロザリーも侍女として着いて来るだろうしね」
「まず過ぎるじゃないか、向かうぞ、カラザに」
幸いにして、カラザはここから北方街道を南下なんかしたところにあり、ふたりが今いる位置からはそう遠くはない。
ふたりは早速馬に乗り、護衛と共にカラザへと向かった。