王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

ロザリーは鼻を動かし考える。今いるのは斜面の途中だ。上がる方がいいのか下がる方がいいのか、まずは方向を決めなければならない。

(川をたどれって陛下は言ったよね)

水のにおいは下からする。おそらく、谷あいに川が流れているのだ。
道に戻ればあとを追ってくる陛下たちが見つけてくれる可能性もある。代わりに、追っ手に捕まる可能性もまたあるのだ。

(どうしよう。どっちがいい?)

ナサニエルがロザリーに目的地を告げたのはこうして離れたときのためだ。

「……カイラ様、歩けますか?」

「ええ、たぶん」

「川沿いを歩きます。まずはここから下に下りましょう。歩きにくいと思いますが、お尻を地面につけたような姿勢のまま、動いてください」

貴族のご婦人が聞いたら卒倒しそうな指示だったが、カイラは元が平民なので、服が汚れることへの嫌悪感はあまりないようだ。素直にロザリーに従い、移動を始めた。
こういうときはリルの記憶があるのがありがたい。野生の勘というか、山の傾斜を見てどちらの方が歩きやすいという判断が自然とできる。

「……私は、やっぱり陛下の妻としては失格なのかしら」

ぽつり、とカイラが言う。ロザリーは驚いて動きと止めた。
カイラの胸は呼吸の荒さと比例して激しく上下している。表情を見ればとても疲弊していた。
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