王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
アレンに連れてこられた山道は、たしかに道が一部崩れていた。
「ここから落ちたのか」
思ったほど木々は密集していない。ただ途中までは傾斜がきつく、一気に落ちたのだろうというあたりに、馬車の破片が散らばっていた。
「下りてみましょう」
ザックは馬の手綱を枝に結ぶと、躊躇なく傾斜に向かって足を踏み出した。
「お待ちください、我々が先見を……って、陛下?」
ザックのすぐ後を、ナサニエルが追ってくる。
それが意外で、ザックは瞬きをした。
「……身軽ですね、父上。お加減がすぐれないから政務が滞っていると聞いた気がしたのですが」
「ああ、そういう設定だったな」
さらりと言ってのける父親に、この人はどのくらいの秘密を抱え込んでいるのだろうと疑問がわいた。
「意外と策士ですね。なにを企んでらっしゃるんです。兄上のこと……驚きすぎて腰が抜けそうでしたよ」
「ジョザイアから聞かなかったか? 民の不満を高めて、政変を起こさせようと思っている」
「そんなことをしなくても、父上が正しい政治をすればいいじゃないですか」
さもあたり前のように言うザックが、ナサニエルにはまぶしい。
「それができていれば問題なかったのだがな」と苦笑するのが精いっぱいだ。
傾斜が緩くなったところで、ザックは散らばった木片を見る。馬車はここで大きく打ち付けられ、一気にさらに下まで落ちていったようだ。
扉の部分は飛ばされたのか、この場に落ちている。
そこからさらに下に行くと、川が流れていた。ぬかるんだ土には、足跡が残っている。