王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「足跡がありますね」
「ふたり分だな。であれば生きているし動ける状態なのだな」
ふたりが同時に安堵の息を零す。と、顔を見合わせて、ザックは笑ってしまった。
「……父上とこうして話すのは初めてですね」
国王と第二王妃の息子の間にはいつも壁があった。
ザックは父親に無邪気にすがった覚えはないし、構われた覚えもない。
「そうだな。私はお前に、謝らねばならないのだろうな」
「謝る?」
足跡をたどりながら、ふたりはぽつりぽつりと会話する。
「私には三人の息子がいた。本来、同様に愛情をかけるのが父親として正しい姿なんだろう。だが、私はバイロンにしか愛情をかけてはこなかった」
「兄上は第一王妃の子で、王位継承者です。それは当然で……」
「……私は、早くに両親を亡くし、その後は侯爵の手のひらの上で転がされ続けた。第一夫人であるマデリンは兄の侯爵を妄信している。彼女は子を産むことで義務を果たしたと思っているだろう。私を気遣うことはなかった」
「父上」
「私は、カイラに癒しを求めた。しかしそのカイラも、周囲の軋轢に負け、イートン伯爵の屋敷にかくまわれた。多くの人間に囲まれていながら、孤独だった私にとって、唯一、自分の言葉を素直に吸収し、応えてくれたのがバイロンだったのだ」