王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
淡々と語る内容はずいぶんと凶悪だ。人を人となど思っていないのだろう。
そう言えば、カイラ妃も彼女のいやがらせに心を病んだのだったか、と思い出す。

実際にそんなことをすれば、クロエの父親であるイートン伯爵が黙っていない。クロエは後ろ盾のいなかったカイラとは違うし、性格もだいぶ違う。
クロエは生来の負けん気に火が付く。こういった女が望むものは、相手の怯えた顔だ。
どんな嫌がらせを受けても、敵には絶対におびえた顔も傷ついた顔も見せない。
口もとに緩やかな弧を描いて、見下してくるマデリンを、余裕の顔で見上げてやる。

「ただでさえ、王族が次々と不慮の事故に遭う中、私まで死んだら、皆様疑問に思われるでしょうね。内情がどうであろうと、私とコンラッド様の婚約は、対外的にはアンスバッハ侯爵派とバーナード侯爵派の対立を緩めるものと捉えられていたのに」

「……本当に口が達者な娘だこと」

マデリンのいら立ちがいや増す。高慢な女に、その顔をさせられたのはなかなかに爽快だった。
クロエは自分の性格が悪い自覚はある。マデリンを不快にさせられるならば、どこまでもこの態度を押し通してやる。

「その気の強い顔が、いつまで持つのか楽しみだわ」

ふん、と鼻息荒く告げると、マデリンはコンラッドに向き直った。

「コンラッド。本当にこの娘を妻にするつもり?」

「……そのつもりです。ですが、母上はどう思われますか」

コンラッドのほうがよほど気圧されていて、マデリンに逆らう気力を無くしている。
< 168 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop