王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「媚薬……」
コンラッドの呟きに、クロエは体を震わせた。
普通に襲われるならば、舌を噛みきるつもりだった。
クロエは未来に希望は持っていない。どうせこれから訪れるのは、最も愛する兄が後継ぎを得るために誰かと結婚する未来だ。自身も、父の体面を考えればどこかに嫁がされてしまうだろう。そんなつまらない未来と天秤にかければ、クロエはここで死を選ぶ方がマシだと思っている。
だから死は怖くはなかった。
だが、媚薬を使われれば、判断力が鈍り、自ら男を求めてしまうだろう。クロエは自分がコンラッドに足を開く姿を想像し、吐き気がする。
尊厳も心も踏みにじられる。それは、死ぬよりよほど恐ろしかった。
「それを使われるならば今すぐ死にます」
さすがに声が震えた。クロエは近寄ってくるコンラッドを突き飛ばし、書き物机の上にある、ペーパーナイフを手に取る。
しかし、手首をコンラッドに捕らえられ、力の抜けた手からそれが床に落ちる。カツン、という硬質な音が響き渡った。
「だったらなぜ、俺と婚約したんだ。あの時点で、義兄上よりも俺を選んだのではないのか」
「あれは時間稼ぎと諜報活動のためです。本気で結婚するつもりなど、ありません」
「……っ、君は俺をどこまで馬鹿にするんだ!」
コンラッドの目が怒りで燃えた。小瓶の蓋が開けられ、コンラッドがそれを口に含む、そして、口移しで飲ませようと、顔を近づけてきた。
クロエは顔を背け、力の限り抵抗する。けれども、男の力はたやすく女を蹂躙するのだ。
「いやっ。……やめてっ」
唇が触れる寸前、クロエはついに弱音を吐いた。