王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「……無意識だったんだ?」
ケネスに笑われ、ザックは黙る。本当に無意識だったのだと説明したいが、それこそ頭の中がお花畑だと言われそうなのでやめておいた。
「さあ、行こうか。一気に貴族街まで向かうよ」
「ああ。すでに民衆は動いているみたいだしな。人が塊となって動いているのが見える」
「君はそれを率いる資格があるのか問われているってことを忘れないようにね。今は暴動に集中するんだよ」
「分かっているよ」
ケネスの言葉に、気が引き締まる。
常に兄のように前を行く彼を、頼もしいと思う。それはもしかしたら、父がアンスバッハ侯爵に感じた気持ちに近いのかもしれない。
ザックはケネスにとって、恥じない自分でいたいと思う。そしてケネスは、変わっていくザックをときに諫めることはあっても、抑え込んだりはしない。だから一緒に歩んでこれたのだ。
アンスバッハ侯爵もそうであってくれれば、ナサニエルの成長を喜んで受け入れてくれれば、きっと今とは違った未来が訪れていたのだろう。
父の気持ちを考えると、胸が少し軋んだが、首を振ってその思いを振り切った。
「行こう」
ザックの声に、ケネスと護衛たちが頷いた。