王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「どうとでも。平民たちは貴族の圧政に苦しみ、平等な社会システムを望んでいます。そのための交渉を行いたいのです」
「聞けませんね。力に物を言わせる無頼漢の言うことなど。城の警備を破り侵入したことは立派な犯罪です。アイザック様以下、ここにいる平民たちは皆捕らえさせていただきます」
「一番の悪党にそんなことを言われる筋合いはないな」
アイザックが言い放つと、侯爵は深いそうに眉を寄せた。
「なにを」
アイザックはケネスへと視線を向ける。
ケネスは頷くと、持っていた書類を読み上げる。
「これは疑惑段階ですが、ウィストン伯爵首謀と言われた輝安鉱流出事件。裏にあなたがいるのではと言われております。輝安鉱の輸出を手掛けた男が、ウィストン伯爵とあなたが造幣局で内密な話をしていたと証言しています」
「馬鹿な、根も葉もない噂でしょう。造幣局へは何度か視察で言っている。その時のことを勘繰っているだけでしょう」
余裕の顔で侯爵はシラをきる。
ザックはそれを受け流し、次に続けた。
「そのほかにも、あなたが毒に関わってきた疑惑はあります。兄上の病気は、鉛による中毒が原因でしょう。俺をはめたのだってそうです。輝安鉱は、あなたがウィストン伯爵に準備させたものだ。父と母を事故死に見せかけて殺そうとしたのも、あなたの差し金でしょう」
「何の証拠があって……」
どこまでもシラをきる侯爵に、ザックは少し焦る。疑惑は多くある。けれど、どれひとつ取っても、完璧に立証できるほどの証拠が残されていない。ナサニエルとカイラを襲わせたことを証言させるつもりだった御者も戻っては来なかった。バイロンがこの場にいれば、毒を盛られた証言が得られるかもしれないが、彼はまだ別荘地にいる。