王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「そこまでだ」

地を這うような、重みのある声。
その声に聞き覚えのある侯爵は、声のする方角を向いて、幽霊でも見たように蒼白になった。

「……陛下」

「茶番は終わりだ。私とカイラは侯爵に騙され、王都外に出て襲撃された。近衛兵、アンスバッハ侯爵を捕らえろ。王家への反逆罪だ」

ナサニエルがパチン、と指を鳴らすと、近衛兵団が一気に動き出す。

「な、……なぜだ。なぜ生きてる。あんなに良くしてやったのに、なぜおまえは私に歯向かおうとばかりするのだ」

侯爵は近衛兵に腕を掴まれながらも、ナサニエルを睨みつけた。
それを、ナサニエルは静かに見つめる。

「私とて、あなたと歩んでいきたかったですよ、義兄上。だが、あなたが望んでいたのは、私を抑え込むことだった。だから私はもう、あなたとは決別する」

ナサニエルが公爵から目をそらすと、それを合図とばかりに近衛兵は地下に向かって歩き出した。処分決定まで地下牢へと入れるのだ。

「ナサニエル! 話し合おう! 私はお前のために」

「……残念です。義兄上」

拳を強く握ったまま、ナサニエルがうつむく。
憎いと思っていたはずなのに、いざ決別となれば胸は痛かった。
甘いと言われようとなんだろうと、彼を慕っていた時期をナサニエルは忘れられない。

侯爵の姿が見えなくなってようやく、ナサニエルはアイザックの前に立ち、平民たちへもゆっくりと視線を送る。

「モーリア国国王として、平民たちの提案を受け入れよう。具体的な方策は今後議会を行い、詰めていくことにする。平民側から代表者を二名選出し、アイザックを通して私のところへ報告するように。それと、今までの圧政についてはお詫びしよう。国政の最終統括者として、私は判断を誤ったことを認める。今後議会制度を改めることで、改善していくことを宣言しよう」

死んだと思われていた国王陛下が現れたこと、自分たちの要求が受け入れられたことで、平民たちからは歓喜の声が上がる。

城のガラスから傾いた陽の光が差し込む。それは神々しく、ナサニエルを照らした。
黄昏の時間に行われたこの出来事は、のちにモーリア国の黄昏革命と呼ばれることとなる。
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