王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「コンラッド。お前、まだアイザックとクロエ嬢が懇意だと誤解していたのか? アイザックにはべたぼれの女性がいるんだぞ」
「兄上!」
「なん……、じゃあ、クロエ嬢はどうなるんですか! 自身を犠牲にする覚悟で兄上を守っていたのに」
真っ赤になって首を締め上げてくるコンラッドを、アイザックはなんとかなだめる。
「落ち着けコンラッド。クロエ嬢は俺じゃなくてケネスを守っていただけだ。俺は昔からクロエ嬢には目の敵にされてるんだぞ?」
「本当ですか?」
ものすごい疑いのまなざしにたじろぐ。クロエの演技がうまかったのかもしれないが、コンラッドも思い込みが激し過ぎる。
「本当だ。嫌われた覚えならいくらでもあるが、好かれた記憶はひとつもない。それに、俺はロザリーが好きなんだ。変な噂が立ったら困る。勘弁してくれ」
「ロザリーとは?」
「母上の毒見係だよ!」
「ああ、あの……」
人物が思い当たったのか、コンラッドはぱっと手を離し、その後で深いため息をつく。
「……まあそう言っても、俺には全くチャンスはないんですけどね」
すっかり消沈した様子に、バイロンが笑った。
「おもしろいな。内情はどうあれ、弟がふたりも婚約破棄された令嬢とは。逆に興味が湧いてくる」
楽しそうなバイロンに、アイザックとコンラッドは顔を見わせる。興味を持つのは構わないが、相手は難物である。権力で押そうが同情で押そうがたじろがない令嬢だ。
「俺はおススメしませんよ」
「俺も。ここで兄上に持っていかれては立つ瀬がありません」
辟易しているアイザックと、落ち込むコンラッドがおもしろく、バイロンは久しぶりに声を上げて笑った。