王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
思い立ったクロエは、母親に出かける旨を伝え、馬車にて学術院まで向かった。
学術院は城からそれほど離れていない。そのため、城の重臣たちも、なにか調べることがあればここに来る。
学生以外が出入りするのはおかしなことではないので、クロエも何ら気にすることなく学術院に入っていく。
「これはクロエ嬢」
名前を呼ばれて振り向くと、そこにいたのは第三王子コンラッド・ボールドウィンだった。
マデリン妃によく似た面差しだ。空色の瞳がぱっちりとしていて、栗色の髪は癖があり少しうねっている。
顔の系統で言えば美形だと言えるだろうが、そこはかとなく下品な雰囲気が漂っているのがいただけない。
しかし、相手は腐っても王子。伯爵令嬢の立場であるクロエは、彼を敬う態度をとるしかない。
「コンラッド様。この度は、まことにご愁傷さまでございました」
「兄上のことか? まあ長らく病気だったからね。いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたよ」
その言い方が勘に触る。
コンラッド第三王子は十八歳。クロエとは一歳差だ。同じファーストスクール、グラマースクールに通ったこともあり面識は他の王族よりもある。
「……それは不敬では?」
呆れた気分でクロエは言う。だが、コンラッドに動じた様子はない。
「俺に不敬だと咎められるのは、もう父上しかいないよ」
その顔は得意げだ。クロエは気分が悪くなる。
「アイザック様もいらっしゃるでしょう」
彼の機嫌を損ねるのを承知でクロエは言った。異母兄であるアイザックのことを、コンラッドは昔から好きではない。異母兄に限らず、実の兄であるバイロンのことも、それほど好きではなかったようだが。