王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「儀式のときに俺は必要ないよ。バイロン様もいらっしゃるしね」
「いいんですか、そんなこと言って。今頃、アイザック様が青くなって探しているかもしれませんよ」
「あいつも三十五だよ。いつまでも俺が必要ってわけでもないだろう」
クリスは話ながらお茶を入れる。
白磁のカップに注がれた綺麗な赤茶色の紅茶を見て、ケネスは満足そうに香りを嗅いだ。
「君は紅茶を入れるのが上手だね」
幼少期にケイティからしっかり教育を受けたせいか、クリスは平民とは思えないほど行儀作法がしっかりしていて、貴族と同じような立ち居振る舞いができる。この店が、貴族に人気があるのも、クリスの対応によるところが大きい。
「今日は在位五周年の記念式典だ。店を開けていても人は来ないんじゃないのかい?」
アイザック王子が、王位継承したのは、今から五年前の彼の誕生日だ。
ナサニエルとカイラは、それを機に離宮へと居を移した。現在の王城の主はアイザックとロザリンド王妃で、公爵位を得たバイロンが補佐役に就いている。
「そうですけど、仕込みがあるんです。王妃様から明日のお茶会用の菓子を頼まれているんですよ」
「ああ。ロザリーは君のお菓子が大好きだもんなぁ」
王妃直々に菓子の指名をされるのは光栄なことだ。けれど、内実が伴わなければ評判はがた落ちになる。
ロザリーは最初、小さなお茶会用のお菓子をクリスに依頼した。それからもたびたび注文されるところを見れば、そう悪い味ではなかったのだろう。
幼少期からレイモンドに習い、腕には自信のあるクリスも、さすがに次の注文が来るまでは緊張した。