王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「……私は存じませんわ。夫だって、助言はしたかもしれませんが、彼が主導することなんてなかったでしょうし」

「ふむ。なるほど……? 君は何も知らないということか」

侯爵は顎に手を当て、しばし考え込む。今更ながらに、オードリーは夫への不信感が沸き上がってきた。彼に政治家である侯爵と接点があるとは思わなかった。一体どういう経緯で知り合うことになったのか。
彼の専門は鉱物学だ。地質や岩石などを調べるフィールドワークにはよく行っていたから、現場の技術者の知り合いは案外と多いが、政治家とは接点がそもそもないはずなのに。

「あの……」

長すぎる沈黙が気になり、思わず声を上げると、アンスバッハ侯爵は「ああ」と思い出したようにうなずき、笑みを深めた。

「まあいい。君の容疑は晴れたわけではない。しばらくはここで待機だ。衣食住を面倒見てやってるんだ。君が文句を言う筋合いではないだろう?」

「それは……そうかもしれませんが。せめて家族に無事を知らせたいんです。娘はまだ小さいんです。母親がいつまでも不在では、きっと不安なはずです」

「……では、無事を伝える手紙を書くことだけは許そう。しかし、居場所は明かさないように。警備隊を通して君の家族に渡してもらう。それで構わないな?」

「……はい」

それ以上の譲歩は望めそうになかった。
自筆の手紙であれば、クリスは自分からのものだと分かるだろう。何もないよりは、はるかにマシだ。

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