王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

監視のせいで、具体的な名前は出せない。
特にロザリーは、今のところ、ノーマークの人材なのだ。
周囲の認識は、“イートン伯爵が預かっている田舎の男爵令嬢”でしかなく、カイラに仕えるようになったのも、イートン伯爵の計らいだと思われている。
ザックからロザリーを連想する人は今のところおらず、その分、彼女の安全は守られる。
ロザリーがザックの弱みだと知られるのは、避けたいところだ。

一方で、対外的にザックの結婚相手の筆頭候補と思われているのはクロエだ。ザックとイートン伯爵の仲の良さは知れ渡っているし、レイモンドの料理を広める夜会でも、相手役を頼んだ。
むしろ、クロエの身辺警護には力を入れてもらわなければならない。

(まあ、そこは言わなくてもケネスがやっているだろうけどな)

表情に出さないだけで、ケネスもたいがいシスコンだ。学生時代にも美しく気立てのいいクロエに言い寄ろうとする男は多くいたが、たいがいはクロエにたどり着く前に、ケネスによって追っ払われていた。
そろそろクロエも結婚相手を見つけなければならないだろうにと、心配する伯爵夫人を思い出して、口もとを緩めた。

「アイザック? 聞いているの? みなさん、あなたを心配しています。それとね、私、陛下のお召しに従って、城に戻ってきているの。侍女も連れていています。クロエさんも見習いで侍女になってくださったのよ?」

「……クロエ嬢がですか?」

それは意外なひと言だった。
クロエはブラコンで、ケネスと仲の良いザックには当りが強い。カイラのことだって、平民の妃だとあまり好んでいなかったはずだ。
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