王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
ある夜、いつもは静かなアンスバッハ侯爵邸を騒がしい客人が訪れた。
「伯父上!」
「コンラッド……? どうしたんだ? 一体」
第三王子のお出ましとあって、家人がぞろぞろと出てきたが、コンラッド本人が、「伯父上と話したくて来たのだ。皆下がってくれ」と言ったので、侯爵夫人を筆頭にまた奥へと戻っていく。
アンスバッハ侯爵は先ほどまでいた執務室へとコンラッドを招いた。
今から応接室を温めるより、執務室の方が快適だ。
「急に来るなんて、どうしたんだ、コンラッド」
ソファの前のローテーブルには、先ほどまで侯爵が飲んでいたウィスキーのグラスが置いてある。
コンラッドがねだったため、メイドがもうひとつグラスを持ってくる。
「まだ未成年ではなかったか?」
侯爵は大きなため息をついたが、コンラッドは素知らぬふりだ。
「……何の用だ。普段はこちらが行かなければ顔も見せない癖に。マデリンもぼやいていたぞ。バイロンの葬儀以来、顔も見せないと?」
マデリンもコンラッドも城暮らしだが、部屋が違うため、会おうとしなければ顔さえ見ない日が何日も続く。
普通生母とは食事の時間を合わせたりするものだが、コンラッドはそれもしないのだと、マデリンはぼやいていた。
「そんなことより! 兄上の葬儀の日、伯父上は俺を王にしてくれると言いましたよね」
その瞳はぎらついている。
(ほう。野心に火が付いたか?)
アンスバッハ侯爵は顎に手を当て、ウィスキーを口に含んだ。