王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


ケネスが姿を見せなくなって一週間、ロザリーはクロエの様子が気にかかっていた。
考え込むように黙っていることが多くなり、話しかけてもいつも上の空だ。
なにかあったかと聞いても明確な返事はないので、ロザリーとしてもそれ以上は追及できない。

同時期に、マデリンの侍女たちによる嫌味の応酬も鳴りを潜めていた。
何度やってもクロエに言い返されるから、飽きたのかもしれない。
そんな単純な理由かどうかは謎だが、嫌がらせが無いのは楽なので喜んでいる。

ある日、血相変えて第二夫人の部屋を訪れた人物がいた。イートン伯爵だ。

「クロエ!」

「まあ、お父様。カイラ様にきちんとご挨拶なさってくださいな」

突然入ってきた伯爵に、カイラもライザも驚いて言葉も無くなっている。

「これは失礼。カイラ様、ご機嫌いかがですか。不肖の娘が面倒をかけておりませんでしょうか」

「伯爵。クロエさんはよく働いていらっしゃいます。ロザリーさんとも苦手を補い合っていて、とてもいいコンビですわ」

「そう、それは良かった。……ではなくてですね。カイラ様はご存知ですか? 娘に、コンラッド殿からの求婚話があることを」

貴族の婚姻は、本人たちの意思というよりは、親同士の意思の方が強い。結婚に関する条件がすべて決まってから、当人たちに話がいくことだって少なくないのだ。
なのに、今回の話は、イートン伯爵にとって寝耳に水の話だった。しかも、相手方からはクロエから了承は得ていると言われた。まずは確認をと慌ててやって来たのだ。
< 53 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop