王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「……クロエ、お前」
「私は、私を一番うまく使ってみようと思っただけですわ。私の優先事項は、アイザック様ではありませんの。お父様とお兄様。ふたりを守ることです」
クロエははっきりとそう言った。
すでに意思を固めたと言わんばかりの態度に、ロザリーは何も言えなくなる。
「あとは、アイザック様が王位継承権を放棄すると署名なさるかどうかです。私はその説得に乗り出す気はありませんから。カイラ様やロザリーの方でお願いいたしますわ」
淡々と話を進めていくクロエに、伯爵だけは納得できない様子でかぶりを振る。
「駄目だ。絶対にお前をコンラッド様には渡せない。こう言ってはなんだが、コンラッド様には王者の資質が見えない」
「それはそうですわ。でも、考え方を変えてみてください。王の資質がないコンラッド様はいずれ侯爵の操り人形となるでしょう。誰かがそれを止めなきゃならない。それは、妻となる私にだけ可能なことではありませんか?」
「……どういう意味だ」
「私との縁談を、無理を通してでも望んだのはコンラッド様です。つまり、コンラッド様は私の言うことなら、ある程度聞いてくれるというわけです」
「それはそうだが。だからといって、可愛い娘を信用できない男に渡すわけにはいかん!」
クロエとイートン伯爵の間で、静かな火花が散る。頑固なところは父親似らしく、どちらも譲る姿勢を見せない。
「お待ちください」
再び、割って入ったのはカイラだ。
「クロエさんは私の侍女だというのに、今回の話は私も初耳です。おそらく陛下もご存知ないでしょう。一国の王子の結婚が、一部の重臣だけで決められていいはずがありませんわ。このお話は陛下に確認し、ご意見を仰ぎましょう。どうか私に預けてくださいませ」
「カイラ様」
「クロエさん。それまで勝手な行動は慎むこと。いいわね」
「……分かりました」
渋々といった様子でクロエが頷く。この場はこれでいったん収束した。