王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
その発表を、ザックは他人事のように聞いた。
結果として、無罪ではある。が、これはアイザックがバイロンを殺したと認めたような内容だ。
勝手に罪をなすりつけられたときと同様に、勝手に今後を決められたことは、彼の精神に非常にダメージを与えた。
(あのときと同じだな)
以前、ザックは心を壊し、アイビーヒルに逃げた。あのときと同じ息苦しさを感じ、絶望が胸を占めていた。
(俺は、やはり政治には向いていないんだろうな)
あのまま、逃げていれば良かったのかもしれない。
国のためなど考えずに、ロザリーの手を取って、片田舎でのんびりと暮らすのだ。
(……何をして?)
そこまで考えて、ザックは苦笑する。
あそこに自分ひとりで築いたものなどなにひとつない。
イートン伯爵の屋敷で、彼らの好意に甘えて、プラプラとしていただけだ。
礼のつもりで足湯を引く計画を立てたりと領地経営に口は出してみたが、所詮あれだって、イートン伯爵の経済力と普段からの領地経営の確かさが基盤としてあるからうまくいっただけだ。
この身に宿っているのは、王子としての経験と学術院で学んだ経営学や政治学だ。
例えばレイモンドのような料理の腕も、温泉宿を経営する腕も持っていない。
(……向いていなくても、これしかないというのにな)
泣きたい気分でうつむいたザックに、警備兵は不思議そうに問いかけた。