王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「アイザック殿、聞いておられますか? これであなたは解放となります。ですが、基本許可が下りるまでは城内にいらしてください」
「ああ、分かった」
警備兵の話が終わると、コンラッドとクロエがそろって入ってきた。
「コンラッド。……クロエ嬢も?」
呆けて名を呼ぶと、コンラッドは見せつけるように彼女の腰を引き寄せる。
コンラッドは勝ち誇った表情をザックに向け、にやりとほほ笑んだ。
「そういうわけだから、兄上。ド田舎の領地に引っ込んでいただきます」
「どういうことだ?」
「兄上のご執心のクロエ嬢は、私の婚約者となりました。もちろん、本当に結婚するのはまだ先ですがね。あなたが王都からいなくなっても、彼女の親であるイートン伯爵家も今後は安泰です。どうぞ気を安らかにご隠居ください」
「……そういうわけですの。アイザック様、やはり私たち、ご縁がありませんでしたのね。今度こそはと思っていたのですが」
クロエはしおらしく頬に手を当て、コンラッドのから見えないようにして片目でウインクする。
言われていることはチンプンカンプンだったが、彼女に何らかの意図があることは分かった。
「後ほど、正式に父上から話があると思います。グリゼリン領をいただけるそうですよ。未開の土地も多いですが、開拓に力を尽くせば一生などすぐに過ぎていきますとも」
この言いぶりから、父までもグルとなって、自分を王都から追い出そうとしていることがうかがえた。
ザックの中でのナサニエルの信用度がどんどん下がっていく。
それに対し、好きではないが信用度だけは抜群だったクロエの、今回の意図が分からない。